無住心剣流・針ヶ谷夕雲

自分の剣術に疑問を持った針ヶ谷夕雲は山奥の岩屋に籠もって厳しい修行に励み、ついに剣禅一致の境地に達します。

無住心剣流・針ヶ谷夕雲のブログ記事

無住心剣流・針ヶ谷夕雲(ムラゴンブログ全体)
  • 21.相抜け

     木陰に座り込み、五郎右衛門は木剣を作っていた。昨日、また、折ってしまい、何本も作っておいた木剣が、とうとう、なくなってしまった。お鶴から教わった唄を口ずさみながら木を削っていた。  突然、照れ笑いをすると空を見上げた。  昨夜、満月がよく出ていたのに、今日は一雨来そうな、うっとおしい空模様だった... 続きをみる

  • 20.月見酒

    「今晩は思いっきり飲むわよ。飲んで飲んで飲みまくって、あなたを困らせてやるわ」とお鶴は酒の用意をしながら楽しそうに言った。 「お鶴、完成したぞ」  五郎右衛門はお鶴と一緒に暮らし始めて以来、夜になるとお鶴の像を彫っていた。 「まあ、素敵。あたしが観音様になったのね」  お鶴は自分の像を抱きながら嬉... 続きをみる

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  • 19.仁王様の剣

     新たに、二人の生活が始まった。  五郎右衛門は剣を振ったり、座禅をしたり、お鶴と一緒に酒を飲んだりしながら考え続けていた。  活人剣(カツニンケン)とは‥‥‥  無心とは‥‥‥  お鶴は、いつも何かをやっていた。五郎右衛門は一々、お鶴の事を気にしていたわけではないが、くだらない事を真剣になってや... 続きをみる

  • 18.お鶴と横笛

     五郎右衛門が木剣を構えて、空(クウ)を睨んでいると、「五右衛門さ~ん」とお鶴が帰って来た。  大きな風呂敷包みを背負い、酒を抱えながら川にかかった丸木橋を渡って来た。 「疲れちゃった」とお鶴はハァハァ言いながら笑った。 「何じゃ、それは」  五郎右衛門は風呂敷包みを木剣で突っついた。 「あたしの... 続きをみる

  • 17.老いぼれ猫の境地

     お鶴は元気になった。  五郎右衛門はお鶴が寝ている間は木剣を手にする事なく、彼女の看病と座禅だけに熱中していた。  座禅の中で、ひたすら自分を殺していた。 「御免なさいね。あなたの修行を台なしにしちゃったわね。すみませんでした」  お鶴は両手をついて頭を下げた。顔色もすっかり、よくなっていた。 ... 続きをみる

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  • 16.夢想願流、松林左馬助

     お鶴は二日めの朝になっても目を覚まさなかった。  焚き火がどんどん燃えている暖かい岩屋の中で、たっぷりと敷いた藁の上に、お鶴は寝ていた。落ちた時に打ち所が悪かったのか、体に熱を持っていた。五郎右衛門は座禅をしながら、小まめにお鶴の看病をしていた。  なぜじゃ。  なぜ、お鶴はあんな事をしたんじゃ... 続きをみる

  • 15.花見酒

     お鶴が姿を見せなくなった。  昔話をしながら夜遅くまで酒を飲み、朝になると風呂に入って来ようと帰ったまま、もう五日も現れなかった。  五郎右衛門はお鶴の事が気になり、修行どころではなかった。毎日、毎日、木剣を振りながら、小川の方をチラチラ見るが、お鶴はやって来ない。お鶴の足が濡れないようにと、小... 続きをみる

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  • 14.行くな戻るな、たたずむな、立つな座るな、知るも知らぬも

     冷たい風の中、五郎右衛門は朝から木剣を振り続けていた。  昼頃、和尚がのっそりと現れた。 「おっ、また棒振り禅を始めたな」と言いながら目を細めた。そして、空を見上げると、「雪が降りそうじゃのう」と言った。  五郎右衛門も木剣を降ろすと空を見上げた。 「この辺りは雪が多いのですか」 「いや、それ程... 続きをみる

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  • 13.昔話とお鶴

    「昔々‥‥‥」とお鶴は酔いにまかせて話を始めた。  焚き火の側にたっぷりと藁を敷いて、二人は戯れながら酒を飲んでいた。  五郎右衛門が藁束を全部ほぐしてしまった事を怒ったら、お鶴は平気な顔をして、お寺から貰ってくればいいじゃないと言った。  五郎右衛門はお鶴と一緒に山寺に行った。山寺はお鶴の言った... 続きをみる

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  • 12.抜けがら座禅

     五郎右衛門は一睡もせずに座り続けた。  お鶴は五郎右衛門の前で、持って来た酒を一人で全部、飲み干すと、時々、訳のわからない寝言を言いながら、気持ちよさそうに朝までぐっすりと眠った。  目を覚ますと焚き火を燃やし、座り込んでいる五郎右衛門に向かって、「お馬鹿さん、おはよう」と言い、五郎右衛門が返事... 続きをみる

  • 11.新陰流を忘れろ

     和尚の言われるままに、五郎右衛門はさっそく座禅を始めた。  岩屋の入口、いつも、飯を食べる場所に、でんと腰を落ち着け、目を閉じ、足を組み、座禅を始めた。  新陰流を忘れろ‥‥‥  新陰流を忘れろという事は、剣術を忘れろという事か。剣術を忘れろという事は、刀を捨てろという事か。刀を捨てろという事は... 続きをみる

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  • 10.とぼけた和尚

     いい天気だった。  昨日、積もった雪が光って眩しかった。  下界ではもうすぐ、桜の咲く時期なのだが、山の中はまだまだ寒かった。  五郎右衛門は今日も飽きずに木剣を振っていた。新陰流、猿飛(エンピ)の太刀の形(カタ)を繰り返し繰り返し稽古していた。  昨日は相当まいったとみえて、今朝、お鶴は来なか... 続きをみる

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  • 9.傷だらけのお鶴

     次の日の朝、五郎右衛門はお鶴に起こされるまで、ぐっすりと眠っていた。  お鶴は五郎右衛門の体の上にまたがり、筋肉の盛り上がった胸を撫でていた。 「朝か」と五郎右衛門は目を開けると聞いた。 「わかんない」とお鶴は首を振って、五郎右衛門の体の上に上体を倒した。  五郎右衛門は優しく、お鶴を抱きしめた... 続きをみる

  • 8.焚き火を囲んで 2

    「まあ、飲め」と五郎右衛門はとっくりを差し出した。  お鶴は笑うと空のお椀を手に取った。 「八百屋のナナちゃんのお話、知ってる?」 「知らん」 「じゃあ、話してあげる。ある年にね、江戸で大火事が起こるの」 「そういえば、江戸はよく火事が起こる所じゃったのう」  五郎右衛門は酔っ払って寝ていた時、火... 続きをみる

  • 7.焚き火を囲んで 1

     焚き火の火が揺れている。  岩屋の中で五郎右衛門とお鶴は酒を飲んでいた。  お鶴が持って来たローソクがあちこちに灯され、岩屋の中は昼間のように明るかった。 「こういう所で飲むお酒も、また格別だわね」  お鶴は新しい藁束(ワラタバ)の上に座って、ニコニコしていた。 「わしはこの酒、飲んだ事あるぞ」... 続きをみる

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  • 6.お鶴と岩屋

     次の日の朝、朝稽古を終えて、岩屋の前で朝飯を食べている時、お鶴はやって来た。  昨日とは違って、やけに派手な着物を着ていた。昨日は喪服のせいか、寂しそうな感じだったが、今日は華やいでいる。昨日よりも若々しく見え、派手な着物がよく似合っていた。着物いっぱいに梅の花が咲き乱れ、うぐいすが飛び回ってい... 続きをみる

  • 5.お鶴という女

    「エーイ、ヤー」  雪に覆われた山の中で、武芸者は立ち木を相手に木剣を打っていた。木剣が木を打つ音と武芸者の掛け声が静かな山々に響き渡った。  立ち木は枯れ枝を伸ばし、武芸者の木剣と冬の寒さにじっと耐えている。武芸者が打っている立ち木だけが雪を被っていなかった。  凍えるような寒さの中、武芸者は白... 続きをみる

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  • 4.岩屋観音 2

     観音様はゆっくりと近づいて来て、武芸者の隣に来て座ると、刀を押さえるように武芸者の手にさわった。その手の感触は滑らかで柔らかく、以外にも暖かかった。 「いや」と武芸者は首を振り、刀から手を放すと両目をこすった。  寝不足がたたって、幻覚を見ているのじゃろうか。木像が動き、しゃべる位なら、まだ、症... 続きをみる

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  • 3.岩屋観音 1

     武芸者は岩屋の中で、彫り上げた観音像を前に座禅を組んでいた。  宝冠(ホウカン)を頭に乗せ、合掌しながら微笑んでいる五寸(約十五センチ)ばかりの小さな観音様だった。  外から忍び込んで来る風で、時折、焚き火の火が揺れ、観音様の表情が変わるように感じられる。慈悲深い優しい表情が、怒りに燃えた表情へ... 続きをみる

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  • 2.関ヶ原から大坂の陣

     慶長五年(一六〇〇年)九月、関ヶ原の合戦が起こった。豊臣秀吉の死後、二年めに起きた天下分け目の決戦であった。当時、武芸者は八歳の少年だった。  関ヶ原の合戦の一月前、武芸者は父と母と三人で楽しい夕飯を食べていた。ささやかな暮らし振りでも、少年にとっては暖かい家庭だった。  その日、一日中、家の外... 続きをみる

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  • 1.からっ風が吹き抜けた

     上州名物のからっ風が吹いていた。  頬に突き刺さる冷たい風が音を立てて、砂ぼこりを舞い上げた。その砂ぼこりの中、街道に面した空き地に人だかりができている。道行く旅人たちが足を止め、声をひそめて見守っているのは二人の武士だった。  二人の武士は木剣を構えて立ち合っていた。  風に乗って、時折、笛や... 続きをみる

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